医学部・薬学部・看護学部の医療系3学部で行う地域参加型学習の取り組み
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公立大学の中で唯一、医学部・薬学部・看護学部を設置している名古屋市立大学。
その3学部が連携し、およそ10年前から導入している「地域参加型学習」とは、どのような取り組みなのかを薬学部・薬学研究科の鈴木先生に伺いました。
鈴木 匡(すずきただし)教授
▼ご経歴
京都大学薬学部卒業。
京都大学大学院薬学研究科博士後期課程修了。(薬学博士)。
父の経営するドラッグストアの経営に加わり、名古屋、北九州、京都のドラッグストア・調剤薬局チェーンで薬剤師として勤務し薬剤師教育、経営等を担当。
現在は名古屋市立大学薬学部・大学院薬学研究科の教授を務めている。
▼専門と現在の活動内容
専門は、薬局薬剤師の経験を活かした臨床薬学、医療経済学、薬剤師臨床教育など。
医学部、薬学部、看護学部の学内連携教育など多職種連携教育を学部、大学院で指導。大学発信の薬剤師生涯学習の企画・実施も積極的に行っている。
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この記事に書いてあること
地域の実情やニーズから課題解決型医療人を育む
ー「地域参加型学習」はどのような背景から立ち上げましたか
名古屋市立大学は名古屋市が母体の大学であり、附属の大学病院もあります。多くの市民の皆さまに高度先進医療や救急医療などを提供していくために地域医療貢献が大きな課題です。
医療技術や知識は大学の講義で学べますが、地域のニーズや課題は地域の人達の中に入っていかなければ発見ができません。
このような背景から、10年前に医学部・薬学部・看護学部の医療系3学部が連携し地域の課題を解決していくプログラム「地域参加型学習」を立ち上げました。
ー活動体制を教えてください
1年生の最初の授業時に各学部で3〜4人ずつ、3学部で10名程度の混成チームを作ります。チームの活動期間は1年間で、授業としては発表会を含め全15回で2単位取得できます。
まず、3ヶ月ぐらいかけて大学内で手洗いやロールプレイによる医療職の体験、話し合いの方法など基礎的なことを学びます。
その後、夏休み前くらいから各地域や医療施設などへ出て行きます。もう10年ぐらい活動しているので地域や施設の方達も慣れてきて、ほぼお友達のような存在になってきています。
学生たちに、こんなことをやってもらいたいと課題や要望を出してくださるので、学生たちは何ができるか自分達で考えながら何を行うのか決めています。課題内容やチーム名まで自分たちで決めるので、授業というよりは、ほぼサークル活動に近いのかもしれません。
また、この活動は年間を通して活動をするので、チームとしても次第に仲良くなりお互いの考え方が理解できるようになってきます。そのため、将来の医療現場での基礎となるチームワーク能力への育成にも繋がります。
連携は全学年・大学院まで網羅するカリキュラム
ー3学部の連携は卒業まで続くのでしょうか
はい、3学部の連携は全学年・大学院まで網羅しています。3学部で連携したコミュニティ・ヘルスケア卒前教育プログラムの1年生対象が「地域参加型学習」で、薬学部では、2年生以上に引き続き「コミュニティ・ヘルスケア」の授業を開講しています。
- 1年生 「地域参加型学習」
地域の課題を発見し解決方法を発表。
1年かけて地域に出て活動した内容を地域の方へ発表を行います。 - 2年生 「コミュニティ・ヘルスケア基礎」
地域で活躍している医療・介護・福祉関連職の人から基礎を学ぶ。
地域で活躍する薬剤師、看護師、医師、公衆衛生で活躍する人たちから話を伺い、地域医療での多職種連携・協働を学びます。 - 3年生 「コミュニティ・ヘルスケア応用」
薬学部学生による地域活動。
コロナ禍により、ここ2年ぐらいは実施できていないのですが、名古屋市緑区鳴子団地に本学の「コミュニティヘルスケアセンター」という研修所があります。そこに地域の方を集め、薬学部の学生が血圧や骨密度の測定会を行う健康イベントを開催したり、健康相談会などを企画・実施します。センターだけでなく、学生達には高齢者サロンや薬局でも同様の活動を行ってもらって、どのようにしたら地域の人たちの健康増進に貢献できるのかを考えてもらいます。
2021年度は、高齢者と若い人が直接会って話をする場合、感染症への懸念があるので、zoomを使い学生と高齢者の方が交流する機会を設けました。制限時間10分の中で、お互い話をするのですが、高齢者を飽きさせないようにすることはなかなか難しいことです。ですが、それをチャレンジさせることでコミュニケーションのとり方を学びました。 - 4年生以上 「コミュニティ・ヘルスケア実践、発展」
地域医療の現場、特に僻地医療の現場に行き活動。
コロナ前までは希望者を沖縄や石垣島などに連れて行き、そこでどれだけコミュニケーションが取れて活躍できるかを目標に実習を行ってきました。
文化や生活背景も全く異なる中で、どのようにしたら受け入れてもらえるのか、地域の人たちは何を求めているのかを、地域の人たちに何をすれば役に立つのかを考えてもらう活動を授業として実践しています。
ー授業の評価としては、先生方がそれぞれのチームに行うのでしょうか
最終的な授業評価は教員が行いますが、学習評価としては、学生同士がお互いに評価しあう結果を重視して授業を進めています。評価方法は2つです。
- ピア評価
チーム内で、お互いを評価し合います。時間を守っているのか、しっかりと活動できているのかなどの基準で行い、チーム人数が10人の場合1人が9人を評価します。 - グループ評価
グループの活動が進んでいるのか。コミュニケーション不足ではないか、地域との連携が取れているのかを全員が自己評価します。
上記の評価は2〜3ヶ月毎に年4回WEBを利用して実施します。グループ評価でチームの進捗状況が低いところには、教員が入っていき、活動改善のアドバイスを行います。
教員も毎週、3学部で会議を開催し学生からの報告や評価を元に話し合いをしています。学生には専用のHPから学習計画書を提出してもらい、教員の許可をとって活動を進めてもらいます。
ー入学後すぐの1年生は地域の方々とコミュニケーションを円滑に取れるのでしょうか?
1年生については高校卒業後すぐの状態なので、杓子定規なコミニュケーションしかできません。間違った敬語を使っていたり、メール連絡の際に件名を入れずに送信する場合もあるので、情報共有のルールを学ぶ必要があります。
社会の中で、情報を共有・提供できるようになること、約束を取り付けるために必要なことまでも授業のひとつとして学びます。
このような内容は将来、医療職に就いた時にも役立ちます。医療職では情報を適切に収集することが重要ですが、それは簡単に身に付くことではありません。
聞きたいことを端的に聞けるのか、聞いた情報で重要なことは外に漏らさないなどのルールも確認しながら教えています。そのような成長が1年間でチーム内で確実に確認できるように思います。
学生ならではの発見が地域を動かす活動にも繋がる
ー1年生の時に学ぶ地域の課題解決をするプログラムのなかで、先生が見た中で印象に残っている活動を教えてください
2つありますが、1つめは商店街の事例です。車いすの人たちが商店街を通るときに自転車が邪魔で通れないという光景を目にした時に「この街は車いすの人たちに優しいの?車道と歩道の間にブロックはあるし、バリアフリーにはなっているけれど、本当に優しいのかな?」と学生たちが疑問に感じていました。
では、どうしたら解決するのかと考えた時に学生達が考えたアイデアが、まず初めに学生たちが車いすに乗りながらビデオカメラを持ち、街を撮影してまわることでした。その中から感じる課題を街の人たちに共有していく作業を行いました。例えば、自転車が混んでいる場所をデータとして算出し商店街に伝え、商店街から行政に伝えてもらったり、あるいは自転車に乗っている人たちに向けて注意喚起のポスターを貼るなどしました。
また、商店街の人からのご好意で商店街内の店舗に入りビデオ撮影をしていると車いすの人たちの目線からは値札が見えない、商品が取れないという気づきがありました。そのような学生ならではの気づきを自分たちが考えた方法で、自分たちが考えた形で商店街の人たちに問題提起することで、情報を活用してもらえたりアイディアが実用化されることにも繋がりました。
もう一つは病院ツアーです。名古屋市立大学病院は、昔はもっと身近な市民病院でしたが大学の附属病院になったことで、市民の皆さまからは中で何を行っているのかわからない、なんとなく入りづらいイメージ。などの意見がありました。そのイメージを解消したいと学生たちが考えたのが、病院でどんなことを行っているのか地域の方達に見てもらう「病院ツアー」の企画でした。
おとなから子どもまで近隣の多くの方達に参加してもらい、子どもたちには学生が手洗いの方法を教えたり、おとなには、教員が協力して病院内を案内し内部を説明しました。学生と近隣の方達との交流は病院祭を通して関わることはありますが、このように大学病院の協力を得て行うイベントは珍しいので、とても印象に残っています。
ー地域の方からも活動への要望はあるのでしょうか
ここ数年は、コロナで思うように活動ができなかったのですが、高学年のコミュニティ・ヘルスケアの授業で瑞穂区から「高齢者用の体操を作って欲しい」と要請をいただきました。薬学部は体の仕組みはあまり得意ではないので、医学部の先生に入ってもらい体の仕組みを、体操については、中京大学の体操の先生から指導をいただくことができたので、協力してもらい体操を作りました。
それぞれの学部の知識を集めて大学なりの提案ができたことは、とても良い取り組みだったと思っています。
続けていくことで変化する、学生たちの意識
ー授業の一環として学ぶ「地域参加型授業」ですが、学生たちの反応はいかがでしょうか
このような活動をすることで学生たちの意識も変わっていきました。東日本大震災の時には、地域参加型学習を終え上級生になった3学部の学生から支援に行かないのか、行きたいという要望が地域参加型学習を担当する教員にありました。いざ、支援活動に参加してくれる学生を募ったところ、薬学部でも何人かの学生が手を上げてくれました。
被災地では、人も物も足りない状態で、医師・看護師・薬剤師が自分たちで計画を立て各自ができることを提供しながら協力して活動している姿を目の当たりにし、医療職の活躍の形や連携の重要性を学びました。
災害や医療現場では、薬剤師の存在が薄い印象ですが、黙々と医師や看護師のバックアップをして医療を支え地域の方達に感謝されている姿を見た学生が私に「先生、生まれて初めて薬剤師になりたくなった。」と報告してきました。
実際の現場で活躍している薬剤師の姿を見ることは、薬剤師の社会貢献への価値を学ぶことにも繋がります。地域参加型授業を通し感じたことが支援への参加の声になり、教員の協力に繋がったので、このような学習をしていてよかったなと思いました。
継続的に3学部が連携した活動を続けたい
ー活動について今後の展望はありますか
高学年になると、3学部全体で活動がなかなかできないのが現実です。看護学部は4年制なのでカリキュラムが異なるのと、医学部・薬学部も他の授業や臨床実習などで時間を要すため、連携した活動に制限がかかります。なんとか、高学年の卒業までに、もう一度、3学部がしっかり連携し継続できる活動をしたいです。
地域医療の未来を支える医療人を目指して
ー最後に、活動を通して、学生たちには将来どのような医療人になってもらいたいですか
「一人前の医療人になってもらいたい」というのが目的です。一人前の医療人と言っても自分自身で「一人前の医療人」とはどんな人か考えて欲しいのです。
高校までの教育では問題の正解を求めることの訓練をします。ですが医療職の仕事にはそもそもテストの問題の様な正解は無いのです。
入学した学生達は、提示された問題の中から正しいものを選べと聞いて正解を選ぶ能力は訓練してくるのですが、そのような能力だけでは社会人として、また医療人としては今後、活躍していけないと思います。
一番必要なことは「まず問題・課題そのものが何かを把握し、その課題・問題に答えの候補をいくつも提示し、どの答えがその場面で一番価値があるか」という課題解決の考察をしっかりと実行できることです。
単純に人に意思を伝えるだけではなく、課題解決がきちんとできるコミュニケーション能力を養わなければ、医療人としては失格です。その基礎を学ぶためにも「地域参加型学習」を通して課題解決能力の高い医療人の育成に今後も力を入れたいと思っています。
名古屋市立大学 薬学部薬学科の詳細はこちら
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