就実大学薬学部と岡山赤十字病院の連携協定による災害時医療教育
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↑※連携協定締結時の写真(岡山赤十字病院 辻󠄀 尚志院長と就実大学 桑原 和美学長)
1900年以降、世界で起きた主な自然災害の約1割※は日本で発生しています。
災害大国日本とも呼ばれる現状で薬剤師はどんな役割が必要とされるのでしょうか。
今回、現場で必要となる薬剤師の役割を伝えるために、2021年6月就実大学薬学部と岡山赤十字病院は連携協定を結びました。
実際に災害現場へ赴いた経験がある就実大学島田教授と岡山赤十字病院森先生に連携協定までの経緯や実際の講義・演習内容について伺いました。
※令和3年版防災白書 付属資料23より■島田憲一(しまだ けんいち)教授:就実大学 薬学部薬学科
▼ご経歴
東京薬科大学薬学部卒業。
岡山大学大学院自然科学研究科博士課程修了(薬学博士)。
大学院終了後、病院薬剤師として勤務ののち就実大学薬学部に赴任。
就実大学薬学部・大学院医療薬学研究科の教授を務めており、現在は臨床薬学教育研究センター長と薬学部附属薬局薬局長を兼務。
▼専門と現在の活動内容
専門は、病院薬剤師の経験を活かした臨床薬学。HD(Hazardous Drugs)の曝露対策に関する研究や災害時医療の教育に関する研究などに取り組んでいる。
■森英樹(もり ひでき)先生:岡山赤十字病院 薬剤部長
▼ご経歴
1987年 福山大学卒業
1987年 岡山赤十字病院 薬剤部 入社
2001年 医学博士取得(岡山大学)
2012年 岡山赤十字病院 薬剤部長
2019年 岡山赤十字病院 院長補佐兼務
現在 岡山県病院薬剤師会 会長 日赤薬剤師会 会長
▼専門と現在の活動内容
フォーミュラリー、ポリファーマシー対策
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この記事に書いてあること
信頼できる関係だからこそ実現した災害時医療教育連携協定
2006年の岡山大学でのがん研修時のお写真
ー今回の連携協定は島田先生と森先生の親交から発足したと伺いましたが、連携協定を結ぶまでの経緯を教えてください。
島田先生:
2006年に発足したがん専門薬剤師認定制度の研修を一緒に受けたことがきっかけです。
研修期間は3ヶ月でしたが、その後、森先生とは親しくさせていただいています。
私の前職は病院薬剤師だったのですが、その時から何か悩みがあれば森先生へ相談するという関係が約15年続いています。
薬学部のコアカリキュラムの中にも災害時医療が明記されましたが、大学におけるカリキュラムは「災害時医療について概説できる」の一文でした。
これまでも学生に対して講義や演習は行ってきましたが、私が災害支援に行った経験や森先生から伺った岡山赤十字病院の活動を考えると、災害時に対しての訓練を受け、現場の体験も豊富な岡山赤十字病院の先生と講義や演習を行った方が臨場感もあり教育効果が高いのではないかと考え、森先生に連携協定の相談を持ちかけました。
森先生:
島田先生のように信頼できる先生は、あまりいません。私も島田先生から色々と聞けることが多いので本当に私たちは相思相愛の仲だと自負しています。
病院薬剤師・保険薬局の両方の立場で学生に考えさせることが重要
ーお二人の関係性から発足した災害時連携協定ですが、講義や演習の内容を教えてください。
島田先生:
現在、行っているのは4年生の実務実習事前学習の中で講義と演習を1コマずつ合計2コマ行っています。
災害について触れている科目は他にもあるのですが、災害時教育に特化したコマは、この2コマだと思います。
講義については岡山赤十字病院から森先生と石橋先生をメインに、本学からは私の他に災害について非常によく勉強されている吉井助教にも参加してもらい4人で行っています。
森先生:
講義については、過去に起きた災害で、薬剤師がどこまで求められているのかを伝えています。
例えば、東日本大震災ではお薬手帳が流されてしまったために処方されている薬の内容を把握することが不可能になりました。
このことから、アプリでの管理方法が適切ですよ。など普段の生活ではあまり気づかないことを伝えています。
自然災害でも地震と津波では内容が異なるので、それぞれの対応方法やDCP(診断群分類別包括制度)などについても、これから仕事をしていく上では分かっていて欲しいとの思いもあります。
また、保険薬局との連携についても伝えています。
病院は大学との連携はできていますが、病院薬剤師と保険薬局の連携をどのように図るのかは非常に大切です。
全ての学生が薬剤師志望、保険薬局志望ではないので、それぞれの立場について考えて欲しいと思っています。
島田先生:
病院薬剤師と保険薬局の連携については演習でもお互いどのようなことができるのかを両方の立場で学生に考えさせることを伝えています。
ー病院薬剤師と保険薬局それぞれの立場の役割を学生たちに伝えているとのことですが、他に伝えていることはありますか。
森先生:
薬剤師だから薬のことしかしない、荷物運びはしないと言わず何でも協力することが大切ということも伝えています。
どのような立場の人から指示をされても快く引き受けることが大事です。
指揮命令系統は上流の人がしっかりする必要がありますが、上下関係なくチームで行動する気持ちが大切です。
これは、災害時だけではなく緩和医療にもつながることです。災害時教育一つで医療について幅広く学習ができるのではないかと思っています。
このようなことから、就実大学がそういうところに目をつけているのは島田先生の懐の大きさというか頭の良さというか、かっこよさだと感じています。
ー演習については、どのようなことを行っていますか。
島田先生:
災害のあるシチュエーションを作り、その中で「あなたが病院薬剤師であれば、どのようなことを考えられるのか」「保険薬局の立場ではどのようなことを考えられるのか」などと講義で得た内容をもとに自分ができることを5〜6人のグループに分かれディスカッションしています。
前回の演習では、以下の内容をグループディスカッションしました。
ディスカッションまでの前段階
自分で阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震のことを調べる。
↓
調べてきたことをグループで話し合う。
【話し合いのテーマ】
災害時に薬剤師はどのようなことを提供すれば良いのか
阪神・淡路大震災の際にはどんなことが足りなかったのか
東日本大震災の際にはどんなことが足りなかったのか
テーマを元に、以下のテーマで再度ディスカッションを行う。
- 病院薬剤師として何ができるのか
- 災害時に病院機能を維持するために、薬剤師としてどのような関わり方ができるのか
病院薬剤師としての立場でのディスカッション
- 災害現場に赴くまでにどのような準備が必要か
- 現場で薬剤師としてどのようなことができるのか
保険薬局としての立場でのディスカッション
病院薬剤師・保険薬局の薬剤師それぞれの立場になって話し合いをすると、お互いどのような連携が可能になるのかが見えてくるので、医療機関でのそれぞれの役割が明確になります。
現在の防災や災害対策を知るためには、過去の災害を知ることが必要と考えました。
話し合いのテーマの元になった阪神・淡路大震災の時には薬剤師を含めて災害時医療がうまく連携できなかった教訓があるので、このようなテーマでディスカッションを行いました。時間の都合上、熊本地震に関しては石橋先生のご経験を踏まえて、最後にまとめの授業でフォローして頂きました。
ー講義・演習については授業の一環となりますが、先生方の評価は何を基準にされていますか。
島田先生:
最終的に話し合った結果を発表しレポート提出された内容を評価していますが、絶対的な正解があるわけではないので、科目評価の基準としては災害時における薬剤師の役割がしっかりと記載されているか、グループディスカッションの際に議論に参加しているかなども重視しています。
この科目では、正解を求めるよりは「何ができるのか考えさせる」部分が一番重要だと考えているので、個人評価ではなくグループでの行動評価としています。
学年が上がるにつれて低下する災害現場での救護活動参加率を向上させたい
ー実際に講義・演習を受けた学生からの反応はいかがでしたか?
島田先生:
授業に参加した全員にアンケートを取ってはいませんが何人かの学生からは森先生や石橋先生の体験内容を聞き「知らないことが多かった」「自分でも災害現場で対応したい」との声が上がりました。
今回の連携協定のこともあり、昨年1〜6年生全員に災害に関するアンケートを取りました。
薬剤師になったら災害現場で救護活動がしたいですか?との問いに対し約7割が「何らかの救護活動に参加したい」と答えました。
全体が約7割の中でも1年生は割合が8.5割と一番高く、理由は実際の災害現場を何も知らないからという面で高いのかなと感じます。
2年生以降は「参加したい」との割合が下がるので、大学で学んでいく中で現実を知り恐怖心が備わってきて参加意欲が低下しているのではないかと考えています。
連携を通じた教育で正しい知識や心構えを伝えることができれば1年生の高水準を維持することが可能ではないかと思います。
大学と病院が連携することで、未来の医療に役立つことにも繋がる
ー今回の連携協定を通じて、就実大学と岡山赤十字病院で行いたい研究などはありますか?
森先生:
病院には分析する能力・機械が不足しています。例えば、何らかの中毒で運ばれても分析する機械がないので研究機関に依頼する必要があります。
しかし、今後、共同研究が可能になれば患者さんから血液の一部をいただき研究ができるかもしれません。
研究を行うことで目の前の患者さんだけではなく、将来の患者さんを治すことに繋がるので岡山赤十字病院だけではなく、良いデータが算出できれば日本全国の患者さんの治療に繋がるかもしれません。
これからは研究に対しても民間病院も関わっていかなければならないと考えているので、大学と共同研究ができると病院としての幅も広がります。
現時点では何を調べるかなどは考えられませんが、就実大学の先生方はプロフェッショナルな人が多いので、ともに連携できることはとても良いと考えています。
島田先生:
大学には統計や分析のプロがいますので共同研究はもちろん行っていきたいですが、連携協定では災害教育が一番の柱だと思っていますので、薬学生へ発展させた災害医療の教育機会を提供したいと思っています。
例えば、岡山赤十字病院で災害教育研修を共同で行うなど、将来的には現在の2コマよりもう少し発展させた教育を行っていきたいと考えています。
災害時教育の延長として岡山赤十字病院での災害時研修を学生にも体感してほしい
ー実際に学生が病院内で災害教育研修を受けることは可能でしょうか?
森先生::
当院は基幹災害拠点病院なので年に1回看護学生約300人が被災者となり実習を行っています。
実際のカルテを使用しオペの件数や安否確認、薬剤部に対応できる人数の確認、被害状況の報告など災害時さながらのピリピリした環境を肌感覚で味わえます。
このような緊迫した現場を目の当たりにすると学生にとっては訓練がいかに大事なことなのかが実感できるので、ぜひ見学に来ていただきたいです。
実習の中には電気が使用できない状況での対応、非常食であるカンパンの実食なども体感できるので今後の災害時教育に繋がると感じます。
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